足場はなぜ「空き巣の利便性」になるのか
大規模修繕の工事期間中、管理組合が見落としやすいリスクの一つが「防犯」です。多くの理事は「工事業者を信頼しているから大丈夫」と考えがちですが、実際には足場の存在がマンション内への侵入経路になる事例が報告されています。
関連記事:「仮設足場の種類と安全対策」も合わせてご覧ください。
なぜ足場は「泥棒の利便性」を高めるのでしょうか。理由は単純です。足場があると、1階から屋上まで、誰にも見つからずにアクセスできる「階段」が出現するのです。通常、マンションの各住戸はドアと窓のみで、高所からの侵入は困難です。しかし足場がそびえ立つと、その状況が一変します。
さらに、修繕工事が行われている最中は、出入り口が多く、作業者以外の進入を完全に検問することが難しいのが実情です。工事業者・出入り業者・検査者など、多くの人が出入りするため、紛れ込みやすいのです。
足場からの侵入経路と一般的な手口
過去に報告された盗難事件から、足場を使った侵入パターンを整理してみます。
関連記事:「修繕中の生活への影響」も合わせてご覧ください。
パターン1:屋上からの侵入:足場で屋上に登った後、屋上の通気口や小窓を破壊して侵入し、階段を使って下階の住戸に侵入します。屋上は防犯カメラの死角になりやすく、作業者も立ち入らない時間帯を狙われやすいです。
パターン2:外壁補修工事中の窓からの侵入:足場が窓の高さまで達している間に、窓ガラスを割るか、あるいは外壁補修の作業員になりすまして窓を開けさせ、侵入します。作業が混雑している日中の侵入が多いです。
パターン3:工事用出入口からの侵入:足場組立初期は、資材搬入用に1階の出入口が開きっぱなしになっていることがあります。この間に侵入し、足場を使って上階に逃げ込みます。
パターン4:共用部からのアクセス:屋上ドアや共用部の窓が施錠されていない場合、足場を使ってこれらにアクセスし、建物内部に侵入します。
これらのパターンに共通するのは、「足場という高所アクセスツール」と「工事期間中の出入管理の緩さ」が組み合わさることで、侵入リスクが高まるということです。
施工会社が実施すべき防犯対策
大規模修繕の契約段階で、施工会社に対して、以下の防犯対策を明記すべきです。
関連記事:「工事期間の目安と管理」も合わせてご覧ください。
1. 足場昇降口への施錠・検問:足場への出入口を限定し、その出入口に門扉を設置して施錠します。出入りする際は、作業者ID確認と記帳を実施します。工事関係者以外の足場アクセスを物理的に遮断するこの対策が最も重要です。
2. 足場周囲への防犯ネット設置:足場に防犯ネットを巻き、外部からの容易なアクセスを防ぎます。同時に、足場上からの落下物防止にもなり、一石二鳥です。
3. 屋上・共用部の出入口施錠:工事期間中も屋上ドアや共用部の窓は施錠を維持し、必要な場合のみ工事関係者のみ出入りを許可します。施錠忘れを防ぐため、チェックリストを毎日実施します。
4. 工事用出入口の管理:資材搬入口に看板を設置し、「関係者以外出入禁止」を明示します。可能であれば、警備員を配置して出入り人員の確認をします。
5. 夜間・休日の巡回:工事が行われていない夜間や土日には、足場周辺の巡回を実施し、不正進入がないか確認します。特に日没後は、足場への不正アクセスが容易になるため、この時間帯の警備が重要です。
これらは「施工会社の義務」として、工事請負契約書に明記すべき項目です。「防犯対策は当然」という認識を共有することが重要です。
管理組合が実施すべき防犯対策
施工会社任せではなく、管理組合自身も防犯対策に取り組む必要があります。
住民への注意喚起:工事開始前に、全住戸に「工事期間中の防犯対策について」という案内を配布します。内容は以下の通りです。
- 窓・ドアの施錠を普段以上に厳重にする
- 高層階でも窓開きっぱなしを避ける
- 工事関係者でない人物が建物内を動いていないか注意する
- 不審者を見かけたら、すぐに管理会社・警察に通報する
- 工事期間中は外出時の戸締まり確認を二重にする
足場周囲の定期的な確認:修繕委員会のメンバーが、週に2〜3回、足場周辺を見回り、以下の点を確認します。
- 足場昇降口が適切に施錠されているか
- 防犯ネットに破損がないか
- 屋上ドアの施錠状況
- 工事用出入口の警備状況
防犯カメラの増設検討:通常の管理で防犯カメラがあれば、工事期間中も継続稼働させ、必要に応じて一時的な増設も検討します。特に、足場昇降口、屋上アクセス、共用部入口などの重要ポイントの監視が有効です。
警察への事前通報:大規模修繕開始前に、管轄の警察に「工事期間中の防犯対策について」相談し、パトロール強化を要請することも有効です。警察も建設工事中の犯罪リスクを認識しており、協力を得られることが多いです。
住民の自衛策と日常の注意
最終的には、各住戸の住民の日常的な注意が最も重要です。
▶ 関連記事:住民アンケートの実施方法と活用のコツ
施錠の徹底:朝出かける際の戸締まり確認、寝る前の戸締まり確認を習慣化します。特に、高層階であっても窓からの侵入は可能です。少しの外出でも戸締まりを忘れない習慣が重要です。
窓開きっぱなしの厳禁:大規模修繕期間中は、部屋に誰もいない時間帯に窓を開けることは避けるべきです。工事期間中は外の人通りが多く、進入の隙をうかがっている可能性があります。
知らない人の訪問に応じない:工事期間中、「工事関係者です」「点検です」と言って訪問する詐欺師がいます。作業者の身分証確認、工事内容の確認を必ず行い、不審なら管理会社に連絡します。
不審な行動の通報:足場を登ったり、建物周囲をうろついている不審な人物を見かけたら、躊躇なく警察に通報します。「誤報かもしれない」という躊躇は禁物です。
工事会社の信頼性確認と防犯対策の契約化
大規模修繕の業者選びで失敗しない方法の中で、施工会社の選定基準の一つとして「防犯対策の実績」を加えるべきです。
過去の工事で防犯事件が起きたことはないか、防犯対策にどの程度の投資をしているか、これらを施工会社に確認します。見積もり比較の際に、「防犯対策費用」を内訳に含めるよう求め、複数社の対応を比較することも有効です。
契約書には、「工事期間中に盗難等の防犯事件が発生した場合、施工会社が一定の損害賠償責任を負う」という条項を入れることが望ましいです。これにより、施工会社の防犯対策へのモチベーションが高まります。
まとめ:防犯は「共有責任」の体制で
大規模修繕の防犯対策は、施工会社の責任だけでは不十分です。管理組合と住民が一体となった「共有責任」の体制を構築することが重要です。
修繕委員会の立ち上げ方の中で、「防犯対策担当」を明確に配置し、定期的な巡回と住民への啓発活動を実施することをお勧めします。
「工事期間中だから盗難が増える」は「避けられない宿命」ではなく、適切な対策で「十分に予防可能な事象」です。工事開始前から防犯計画を策定し、施工会社・管理会社・住民が一体で対策に臨むことが、安全で快適な大規模修繕の実現につながります。
あわせて読みたい


